「山田さんっ!!」

「おー!空実さん!退院おめでとうー」

みかの警護に当たっていた山田さんは、合間をぬって私に会いに来てくれた。

「明日から、また一人です...」

「それはいいことだぞ?退院できたんだから。しかも、大学生にもなって一人でやっていけなくてどうする?」


くしゃっと私の髪を撫でる彼。

そうだけど...そうだけど、山田さんは私と離れてなんとも思わない?

...そりゃそうだけどさ。

刑事として私に優しくしてくれただけだし。

「山田さん.......彼女とかいるん...ですか?」


「ぇ?」

え....

あっ、

なに言っちゃったんだろう私...。

顔が熱くなる...。

「あっえっと...なんでもないです!すいません...」

きゅうううううっと締め付けられる心。

恥ずかしい。

どうしてこんな言葉を口走ってしまったのか...すごく後悔。


「あー空実さんもまだ女の子か。」


山田さんの言葉に顔を上げる。

「えっと...?」

少し意味がわからなくて首を傾げる。

「口にすると結構恥ずかしいねっこれ」

山田さんはそう言うと、
照れくさそうに頭をかきながら、手を顔を隠している。

照れてる...

かわいい。

山田さんが...照れてる...。

写真に収めたい。
かわいすぎてカッコよすぎて私の心は制御不能状態。


「いや〜もうとっくにお婆ちゃんかと思ってたよ。はははっ!」

っ!?!?!?!?

満面の笑みで私をいじめてくる山田さん。

「ひっひどいっ!!!!!最悪!」

なにそれ...ちょっと女の子って言われて嬉しかったのに。

女の子以下の扱い受けてきたからとは、言い難いけど、本当に自分を女と見てくれてるか心配だった。

不安だった。


「なになに?もっと言ってきてもいいよ?」

もうっ...
そうやってまたいじめる...。

そんなとこも好きだよ。

「.....ばかっ!山田さんのバカアホ!」

少し涙で目の前が霞む...。

こんなの見られたらよけいにからかわれる。
咄嗟に顔を隠す。

「.......空実さん?ごめん...」

心配そうに手を伸ばしてくる彼。

「見ないでっ」

恥ずかしいよ...
大学生なのに、こんなことずびずび泣いちゃって。
アホなのは私の方だよ。
バカなのは私のわがままさだよ。

「はいっ。」

ぽんっ。


....?

頭を、軽く叩かれた。

「ぇ?」

びっくりした拍子に顔を上げる。

「泣いてる...あはは。かわいいね。」

山田さんは、満面の笑みを浮かべると、手帳を取り出し何やら書き出した。
そして、小さくちぎって私に渡した。

「...秘密だよ。ほら。」

しーーっと人差し指を口の前に当てた彼は、私に折りたたまれた紙を渡した。

「ぇ...これ.....?」

「家帰ってからのお楽しみね。」

山田さんは、小さくウインクすると、

「いないよ...彼女。」

っと、吐き捨てて警護に戻って行った。


どくんどくん。

鼓動が早くなる。

手渡しされた時の彼の手の体温が、私の右手にじんわりと残っている。

そこが妙に暑くて。

やっぱり、どんな意地悪な山田さんでも
好きだな。

大好き。



私は、入院時の着替えやら何やらを詰めたトランクと、彼に貰った秘密の紙を握りしめて家に帰った。