それは深い森の中に、忽然と出現した。




鬱蒼とした暗い森は樹齢何百年と思われる大木が生い茂って日も射さず、四方から不気味な獣や鳥の声が響きわたり、景色の変化もみられず方向感覚を狂わせ、迷い込んだ旅人達を不安の渦に陥れる。

長い不安と向き合いながら前へ前へと足を進めていた一行は、やがてその深い森の中に光の射すささやかな開けた空間にたどり着いた。


疲弊していた彼らを慰めるような暖かな日差しの中に進みながら、その空間の中心にあるものに一行は意識を向けた。



そこにあるのは、小さな狩猟小屋のような外見の小屋だった。


狩りにやってきた猟師たちが夜を明かすために建てられたものだと考えるのが普通だが、それも普通の森であればの話。

一行がいる森は近隣の村から魔物が住む森と噂される、猟師たちも避けて通る不吉な森だ。誤って森に入った村人や旅人は全て帰らぬ人となり、稀に発見されても死体となって発見されるほどだ。そして見つかった死体には、爪のようなもので裂かれた痕や噛み痕が残っているという。


しかし、村人に散々引き留められながらも一行がこの森を進んだのには訳がある。





その森に、現在彼らが探し求めるその人がいるという噂をきいたからだ。