「り、理湖っ!!」

同じクラスの愛里紗(ありさ)が突然、廊下からあたしの名前を叫ぶようにして呼んだ。

「なぁに?」

あたし、水田理湖(みずたりこ)
16歳。ごく普通の高校一年生。

窓側の一番後ろで、お弁当をつつきながら愛里紗のほうを見た。

今は昼休みで。みんなで楽しくゴハンを食べてたというのに。

なかなか動かないあたしに愛里紗は、しびれを切らしたのか席まで走ってきた。

「ちょっ!のんきにゴハンなんか食べてる場合じゃないってば!」
「のんきに、って…。だって今ゴハンを食べる時間でしょ」

そう言いながらも、卵焼きをパクッと口に放り込んだ。

「ん、今日の卵焼きもうまくできてる」
「いやいやいや!卵焼きなんか、どうでもいいから!早く来てっ!」
「えぇ?ヤダよぉ、食べてからじゃダメ?」
「ダメっ!先輩が来てんの!」

先輩…?先輩って、誰?男?女?情報がまったくない…。

「愛里紗、ちょっと落ち着いて?先輩って、誰?」
「あ、そっか!哀川先輩!哀川遊聖先輩だよ!」
「は?どうして?」

哀川遊聖(あいかわゆうせい)
彼はあたしの一つ上の先輩。

学年一のイケメンで、モテモテの先輩がどうして面識もない、あたしを呼び出すの…?