橘はニヤリと笑い、こちらを見る。


「奈良原と勝負してるってのとー…奈良原が宮内の部屋に入り浸ってるってのと、奈良原がゾッコンての」


…………


「ゾッコン、ね……」



「でもお前ホント大事にされてんのな」


「実はそのゾッコンのはずの奈良原くん……

昨日帰っちゃいました」


「はぁっ !?」



大きな声を出した橘。


「なんで?喧嘩でもしたか」


「うーー……ん」



「お待ちどうさま、フライ定食とメンチカツ定食」



定食屋さんのオバチャンが運んできてくれたメンチカツに、思わず釘付け。


「宮内、食うのもいいけど話進めろ」


「あ、ハイ」


ソースをかけながら、割り箸をパキンと割る橘を盗み見た。



「実は、ですね」





一紗に甘えてしまってること。


一紗がいなくなって寂しくて仕方ないこと。



昨日帰ったことも、すべてさらけ出して橘に伝えた。



「お前が悪い」


「えっ、ひどっ」


しかめっ面で言われて少なからずグサッときた。


「今すぐ奈良原んとこ行って好きだって言ってこい」


「なっ……なんで !?」


「なんでって、そりゃ好きなんだろ?」


「好きじゃないよっ」


「あのなぁ、女が男に甘えなくてどうすんだよ? 宮内が甘えたらあいつ、きっと喜んで甘やかすぞ」



「…………じゃあなんで出ていっちゃったの」


「そりゃ、悲しかったんだろ」