「…何歳」
「声を大きくして言ってください」
「…何歳かって聞いてんだよ」
ちょっと強めに言うと、クラスの連中が俺から目線を外した。
…今のが怖ぇのかよ。
教室の空気が悪くなったのを感じ取ったのか、小暮が俺に座れ、と促してきた。
テメーが質問させたんだろうが。
「で、先生何歳なのー?早く教えてよ」
小暮の能天気な声のトーンが、教室の中の雰囲気を少し晴らす。
「私は今年、28歳になります。皆とはちょうど10歳離れていることになりますね」
「そうなんだ!アラサーじゃん。結婚はしてんの?」
「未婚です」
「考えてる相手とかいんのー?」
「残念ながら、いません」
「そっかぁー、良い相手、見つけないとね!」
「そうですね」
小暮と井上の話を、笑顔で見ているクラスの連中。
傍から見れば、微笑ましい教室の風景。
さっきまで悪かった空気を、どうでもいい話で、明るい雰囲気に持って行った小暮。
こいつはいつだって、そういう奴だ。
1年の時も2年の時もずっと。…今だってずっと。
こいつは俺の隣で、俺とは違う扱いを受けてる。
俺とさほど変わりないはずなのに。
俺と同じような毎日を送っているはずなのに。
なのになんで…こいつだけ…
「…秀司?」
小暮が心配そうに俺を見てるのが分かる。
こいつは何も知らない。俺が何を考えてるのか。
何も知らない、だから仕方ねぇのに、俺は小暮が嫌になる。
そんな俺が、俺はこの世で一番嫌いだ。
この気持ちはいつまでもきっと、消えねぇ…
「秀司!」
俺はスクバを背負って、教室を出た。


