1.出会い
「ご…ごめんなさいっ」
「え?」
ちょっと待て。何だコレ。
「私あなたの事好きじゃないです!」
そういって、彼女は去っていった。
じょ、状況が飲み込めない…
「…うそだろ…」
ー5分前ー
「あの…あたし、あなたの事が好きです!一目惚れで…」
「あ、ありがと…でも俺らまだ会ったばっかだし…やっぱ考えさし「あれ!?」
「…え?」
「ご…ごめんなさいっ」
「え??」
「私あなたの事好きじゃないです!」
「…うそだろ…」
今日は入学式で、入学早々放課後に
女の子に呼び出され、告白!?と思いきや、
…人違い…。
俺も本当ツイてねーな…。
キーンコーンカーンコーン…
あの子も告白で人違いなんて、と思っていると、下校時刻を知らせるベルが鳴った。…もう少ししゃべらせてほしかったのに。
「…帰るか…」
俺はトボトボと歩き始めた。
空野 優生(そらの ゆうき)。性別男。
高校一年生。それなりに友達も居るし、恋だってした事もある。
勉強は…まぁ、先生に呼び出されて説教されるくらい。それも2回に一回だけ。運動神経は、中学でサッカー部に入っていたから、少し自信がある。
あ、そういえば今日、TVでサッカーの試合があるんだっけな。確か予約したから…平気か。
そんな事を考えていたら、ふと、帰路から少し外れた所にある、桜並木の道が目についた。
俺は少し気になって、桜並木の道をブラブラと歩いていた。
桜だけでなく、自然は好きだ。歩いていると吹いてくるそよ風も、アスファルトの隙間から根強く咲くタンポポも、
太陽の光できらめいて流れる川も、みんな好きだ。
この道は、まさにそんな感じの、河原道だった。
そう思いながら、桜を見て歩いていた。
「…きれいだな…。」
「うわあああぁぁ!!!!」
「…ん?」
ガシャァン!!
「って~…!」
「いった~!」
自転車にぶつかったらしい。頭がズキズキする。そう思いながら顔を上げた時、目の前に居たのは、同い年くらいの女の子だった。肩まであるクセっ毛の髪に、長いまつげに子犬みたいな瞳。少し小柄で、ふわふわとした雰囲気の子。
「…あ!すっすいません!桜を…見ながらこいでたもんで、そ、そりゃ、ぶ、
ぶつかっちゃいますよね~!バカですね!あはは~!!」
「…。」
この子すげーな。…色んな意味で。
何と言うか、面白い子だ。
「あ、あはは、すいませんスベっちゃいましたね…。」
彼女は肩位まである髪をふわっとゆらして、少し困った様に笑った。
俺が黙っていたので、空気を変えようと思ったのか、その子は口を開いた。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「え?あ、うん、俺は大丈夫。」
「そ、そうですか…」
「そっちは?だ、大丈夫?」
「え?あ、はい!」
「そっか…」
「「……。」」
また、沈黙が訪れた。
その時、ふと倒れたままの自転車に気づいた。
「あ、自転車、起こすよ。」
自転車の方に向かって歩き、ハンドルをつかんで自転車を立ち上げた。
「すっすいません、なんか…」
女は、今度は申し訳なさそうに笑った。
俺はふと桜の方を見て、話し始めた。
「…桜。」
「え?」
「きれいですよね、桜。」
「あ……はい。」
「俺、自然が好きでさ。この桜の木も、太陽も、歩いてる時に吹く風も、
夏になったら鳴く虫とか、光の反射できらめいて流れる川も、すごく好き。」
「…はい。」
なんでこんな事、この女の子に話しているんだろうと思う。
「特に俺は、空が一番好き。
朝の少し薄い色とか、昼の透き通る様なあの雲とか、雨だったり、虹だったり、満点の星空とか。」
「…はい。」
でも、不思議ととても落ち着いて、穏やかな気持ちになる。
「私も、」
「え?」
「好きです、ていうか、大好き。」
その瞬間、俺はこれまでにないくらい、胸の奥がドクッと跳ねた。
「桜も、太陽も、風も、動物も、川も、…空も、大好きです。」
女の子の、初めて見た笑顔。
ふわりと、優しそうに笑う。
「あの!」
「え?」
迷惑だって分かってる。
「えっ…と、俺、空野 優生って言います。」
無茶だって分かってる。
「もしよかったら、また…」
「…。」
でも、俺はこの気持ちをーー
「同じ頃に、ここで、また。」
ーー信じてみたいんだーー。