お賽銭箱の前に腰を下ろすと、
その隣に朱里も座った。
どうしようもなくモヤモヤして彼女の顔が見れなかった。
どうして怒っているのか、彼女が俺に懸命に聞く。
そっけなく返すと、「嘘です」と口をとがらせる。
やけになって「あぁ、怒ってるよ。」と苛立ちをぶつけてしまった。


黙ってしまった彼女の様子を見て、
俺の口から蓋が外れたように言葉が溢れる。
「でも」と言いかけた彼女の意見も塗りつぶすように言葉を重ねる。
「ごめんなさい」と彼女が俯く。
その姿を見て、
俺の中の何かが冷たくなった。
彼女の目から雫が落ち、
それが段々あふれてくる。
その涙に、心が締め付けられた。
「・・・すまない、言い過ぎた。」
そう声をかけると、
彼女はうつむいたまま左右に首を振った。
絶える様子もない彼女の涙に、
昔会った少女の涙が重なる。
壊れてしまう、そんな恐怖に襲われる。
思わず、彼女を抱き寄せていた。
壊れないように、もう壊さないように。
捕まえるように、すがるように、
ただ離せなかった。


「泣くな。」


そう言ってやれることしかできないくらい、俺は臆病だった。