だから、ソージはナニも見なかった。
ナニも聞かなかった。

ダリアが横たわるソージにゆっくり覆い被さったのも。

耳元で響いた、低く狂おしい囁きも。


「可哀想なソージ…」


耳から首筋に、吐息が滑り落ちる。


「その絵空事を現実に変えてあげる。
甘い夢を終わらない悪夢に変えてあげる。
可哀想な、可哀想な、ソージ。
呪われた生を、あなたにもあげる…」


しなやかな指で彼の頬を撫でて。
冷たい唇を彼の首筋に押し当てて。

ダリアは口を大きく開け、ぬくもりを失いつつあるソージの動脈に鋭い牙をめり込ませた。

だが、驚くほど出血は少ない。

吐血しすぎて、もう残ってないの?

いや、違う。
ダリアの喉が鳴っている。

飲んでいるのだ。
啜っているのだ。

血を。

それでも、ソージはナニも感じなかった。

死んでンだから当然か。

感じない。

ナニも。
ナニカを。

感じる。

渇きを‥‥‥