なんだろね。

棚から落ちた植木鉢。
地面にこぼれた、土と天竺牡丹。

そして、尻尾を立てた黒い子猫。


「コラ!」


バーサンが拳を振り上げる。


「にゃー」


知ったコトかとばかりに、黒猫が悠然と鳴く。

根性座ってンな、おい。

逃げる様子もなく身体を舐めて毛繕いを始めた猫を一瞥して、バーサンは大袈裟に溜め息を吐いた。


「なんてふてぶてしい…
あの猫、近頃よくこの辺りに来て悪戯するンですよ。」


「へー。」


「この前も、母屋にあった売り物の鉢植えを壊したりして。」


「へー…」


「…え?旦那?」


愚痴っていたバーサンは、不意に息を飲んだ。

ソージが、いつも傍らに置いている日本刀を手にして、ユラリと立ち上がったから。

バーサンは知っている。

今は病床に伏しているとは言え、彼は幕末の闇を駆け、切り裂いてきた狼。

まさか…