彼女だけは、未だにココを訪れる。

何度断ろうとも、ヤバいよ?感染るよ?なんて脅しても、ものともせずに訪れる。

その理由は、バーサン曰く…


「またそんなコト!
私の稼ぎ口、奪わないで下さいよ!
孫の髪上げの時に新しい着物を誂えてやるのが、私の夢なンですから!」


「…
孫、幾つ?」


「十才。」


「まだ先じゃねェかよ…」


こんなんですわ。

本当はそんな理由じゃないコトは、ソージにだってわかっている。

孫のためとは言え、たかが着物に命を賭けるほど酔狂な奴はいない。

彼女はきっと、同情を寄せているのだ。

若くして日一日と死に向かう、縁もゆかりもない自分に。

優しい人だ。

だからこそ、同じ道を歩ませたくはない。


「ハイ、ハイ。
じゃ、今日もメシだけ置いてってよ。
後は自分でやるからさ。」


やっと振り返ったソージは、バーサンを追い払うようにヒラヒラと片手を振った。

ゾンビなりに、精一杯の笑顔を見せて。