震える膝を血塗れの手で握りしめ、渾身の力でソージは立ち上がった。
出来ないンじゃない。
してないだけだ。
なにもせずに、諦めようとしていただけだ。
孫奪還どころか目標地点にも辿り着けずに、道半ばでくたばるかもよ?
それもイーじゃん。
俺は頑張った。
ダリアは…なんつーか、人とはちっと違うみたいだから、追っかけたりすると逆に迷惑かもよ?
それもイーじゃん。
男はエゴの塊なンだよ。
後先考えず、自分勝手に、したいコトをしたいよーにやって死ぬ。
俺みたいなバカにゃ、似合いの最期じゃねェか。
歯を食いしばって縁側から部屋に入り、押し入れの襖を開ける。
そこにあるのは、竹で編んだ大きめの行李。
終の住処としてこの離れに流れ着いた時に持ち込んだ私物が、全て入っている。
以前、誇りと共に身に纏っていた浅葱色の羽織も。
そこに刻まれた、懐かしい記憶も。
けれど今必要なのは、思い出なんかじゃねェだろ?
ソージは行李の蓋を開くことなく、その上に乗っかっる、汚れた布で包まれた棒状のモノを手に取った。
行け。
今度こそ、己だけの悲願を成し遂げるために。
動け。走れ。
…
走ンのは、ちっとキツいか。