彼女はその存在を愛していた。

ソージを、愛していた。

それが愛とは知らぬまま。


「『ノエル』…
ごめん、本当に、ごめん…」


サムは腰を捻ってダリアと正面から向かい合い、彼女の白く華奢な手を両手で強く握りしめた。

取り返しのつかないコトをしてしまった。

彼女を孤独から救いたいと願っていたはずの自分が、彼女を再び孤独にした。

彼女の幸せを願っていたはずの自分が、彼女の幸せを殺した。

彼女だけの神を殺した。

そして、彼女を悪魔に変える。

東の空が白み始め、靄がかかったような淡い光が辺りを照らしだす。

その儚い光の中で、どうして謝ってるの?なんて目を瞬かせる儚い彼女が痛ましい。

許されはしないだろう。

彼女からも。
世界からも。

僕は、僕は、


「僕は…」


ドカ───ン!!
ガラガラガラ…

苦く掠れた呻きを喉から絞り出すと同時に、サムの耳には終末を告げるラッパにも聞こえる轟音が鳴り響き…

サムとダリアが座るソファーの前にあった、大きな窓を有する壁が倒壊した。