花の名は、ダリア


女は辺りに視線を走らせた。

今、魔物は傍にいない。
『ノエル』は一人きり。

魔物の目を盗んで逃げ出し、助けを求めにきたのかも知れない。

本来なら、先に伯爵に報告すべきだが…

スタンドを立てるのももどかしく、女は原付を道に横倒しにした。

そしてゴクリと生唾を飲み込んで、一歩ずつ『ノエル』に近づく。

あぁ…
なんて儚く美しいンだろう。

ずっと話には聞いていたし、イベントの日には遠目で姿を見かけたが。

近づけば近づくほど、想像以上。

陽に透けて消え入ってしまいそうでありながら、目に焼きついて離れない眩い輝き。

もう、すぐそこに…

けれど女が手を伸ばした途端、『ノエル』はクルリと背を向けて駆け出した。


「お待ちください!
どうして逃げるンです!?」


道を逸れ、山に分け入ってゆく『ノエル』に呼び掛けながら、女は追いかける。

逃げている…のか?

時折、エクボが浮かぶ愛らしい笑顔でコチラを振り返るのに?

まるで、童話の登場人物になって、妖精と追いかけっこしているようだ。

まるで、誘われているよう…だ…?

木々に陽が遮られるほど山奥まで来て、やっと違和感に気づいて立ち止まった女の首筋に、音もなく手刀が振り下ろされた。