(今日も見つからなかった…)


女は溜め息を吐きながら、人気のない山道を原付で登っていた。

途中からアスファルトで舗装された道ではなくなってしまうため、ガタガタ揺れる車体を操るのに苦労するが、仕方がない。

メガネもガタガタ揺れるが、仕方がない。

これは使命なのだから。

そう、女は『使徒の国』の一員。
いや、信者と言ってもいい。

ここ最近、女は毎日島の漁港に通っていた。

もちろん女だけではない。

フェリー乗り場、砂浜、崖の下にまで。
大勢の信者たちが手分けして通っていた。

島に入ってくる見慣れない人物を見つけるために。
もしくは、見慣れない船を見つけるために。

先日本土で主催した新たな信者開拓のためのコスプレイベントが終わった後、やけに疲れた様子のジェルマン伯爵が予言したのだ。


「もうすぐ、島に我らが神『ノエル』を迎えることとなる」


と。

いやいや…
神サマは船になんか乗らねぇよ。
降ってくンだろうから、空でも見てれば?パズーくん。

なんてバカにしたアナタ。

罰当たりな。

『ノエル』は偶像ではない。

我々と同じように呼吸し、生活し、船にだって乗る。

目視でき、言葉を交わせ、触れられる。

確かな存在を有する生きた神。
それが『ノエル』なのだ。