その時、私の首から何かが落ちた。



「…ネックレス…。」



ネックレスが取れて私の首から落ちた
時、一気に今までの懐かしい記憶が
飛び込んできた。



幼い頃、私はたっくんという人と
結婚の約束を交わした事。

高校生になって、たっくんが私の
専属執事としてやって来たこと。

同級生との屋上事件の時、たっくんが
私を助けてくれたこと。

私を優しく抱き締めてくれた記憶…。



全ての記憶が思い出された。




「…全部…思い出したよ…?
…たっくん…!!!!」




自分が部分記憶喪失だという事も
これで、全て分かった。


思い出せた事が嬉しくて、それに
思い出せなくてたっくんに
辛い思いさせちゃった事が悲しくて
私は、涙が止まらなかった。



「…全部…思い出したよ…。
たっくんとの大切な思い出…
思い出したよ…。」



「雪菜…。そのネックレスは…、」



「うん。…そう、たっくんから
幼い頃にもらったネックレス。
ずっと付けてた。外したことなんて
一度もなかったよ。」





たっくんの顔は嬉しい何てもんの
顔じゃなくて、もっとそれ以上
嬉しそうな顔をしていた。


たっくんは勢いよく私を
抱き締めてきた。




「雪菜…!!…良かった…!!
思い出してくれて…良かった…。」



「私ね、たっくんの事忘れてたとき
実を言うとたっくんに恋してた。
忘れても忘れなくても好きになる事は
変わらなかった。」



「あたりめーだ。バカ。
…好きになってもらわなきゃ困る。」





久し振りにたっくんって言った。
やっぱり、たっくんって方が
しっくりくる。





「雪菜…俺の事好き?」



「…ううん。好きじゃないよ。










……好きよりも大好きで仕方ない。」





抱き締め返す力を私は強めた。


たっくんが大好きで、大好きで
本当に仕方ないの。
ずっと一緒がいい。

一緒じゃなきゃダメなの。





「雪菜…愛してるって言って?」


「ふふっ。愛してる。」


「もっかい。」


「…愛してる。」





愛してるって囁いた時、
柔らかい感触が唇に伝わってきた。

キスされたんだと気付くのに数秒。

そのキスは涙の味がした。





「もうぜってぇ離して
やんねぇかんな。」


「うん…。私も絶対離れない…。」





ネックレスが全てを教えてくれた。
ネックレスが奇跡を起こしてくれた。

このネックレスを身に付けて
なければ、私は一生たっくんを
思い出せなかったかもしれない。





「おい、桑田。そう言う事だ。
…雪菜の事は諦めろ。」


「桑田君…。ごめんね…。
本当にごめんなさい…。」





私が口を開くと、桑田君は
やっと話してくれた。



「謝らないで雪菜ちゃん…。
雪菜ちゃんの執事が言ってる事は
一理あるよ。…俺が悪い。

本当に俺、我儘でさ。無理矢理
雪菜ちゃんを手に入れようとしちゃって
ごめんね。

これからは、友達として
仲良くしてほしい。…本当にごめん。」





これはお互い様かもしれない。

傷付けたくないがためにOKして
自分も桑田君も傷付けた私。

私をどうしても手に入れたくて
我儘になってしまって自分自身
を傷付けてしまった桑田君。



お互い様だ…。




「うん。桑田君はずっと、私の
大切な友達だよ。」



「うん。ありがとう。」





桑田君との、仮の彼女、彼氏
の関係はなくなり友達という
関係になった。


たっくんの事も思い出す事が
出来、一件落着。



私の提案で、桑田君を家まで
送ることになった。







***




「じゃぁ、桑田君、バイバイ。」


「うんっ。バイバイっ。」





相変わらず可愛らしい笑顔で
手を振って桑田君は家の中へと
入っていった。



桑田君が家に帰ると、一気に
疲れが出てきた。



「雪菜…、眠い?」


「うん。」


「寝ていいよ。」




たっくんがそう言った時には
既に私は、もう眠りにつく寸前で
肩を抱き寄せられるのを感じ
私は、深い眠りに落ちた。