「雪菜ちゃんっ、雪菜ちゃんも寝て
みなよっ空が綺麗だよっ!!」



「うん。」




(本当に柔らかい笑顔だな…。)




冷たい風で、冷えた屋上の床に
大の字にして寝てみる。


空は雲1つない清々しい空だった。
桑田君の言う通りの綺麗な空。


でも、綺麗な空だと思うけど、何かが
忘れられてポッカリとした穴がある
ような…そんな空って感じもする。



(あの空、私に似てる。)



あの空と同じように、私も心
にポッカリとした穴が空いてるんだ…。
何かを忘れてる気がするの。
でもそれが何かが分からない。


このもどかしい感じ…ヤダな…。





「雪菜ちゃん…?…何で泣いてんの?」





心配そうに見つめる桑田君は、風で
乱れる私の髪の毛を優しく整えてくれる。




「少し寒いね。」



そう呟いて、私の頬をそっと
撫でる桑田君の手は、とても
温かくて安心できた。



目を閉じると、桑田君の声が
頭上から聞こえた。





「雪菜ちゃん…無防備って言葉
じゃ済まされないよ?」





咄嗟に目を開けると、桑田君
が私の事を見つめていた。


ゆっくりと近づく桑田君の
唇がかすかに私のと触れる。





「他の男だったら、今以上の
事されてるよ。絶対。」





私は体を起こした。
寒い風が私たちを吹き付ける。




(風…冷たい…。)




「ねぇ、雪菜ちゃん…。どうしたら
俺の事好きになってくれんの…?」





そう聞く桑田君の顔は少し
悲しげで。


私の髪の毛を耳にかけてくれる。

耳にかけてくれた桑田君の手が
頬に添えられたかと思うと、唇に
柔らかい感触が伝わってきた。




「俺、こんなに本気で人を好きになん
の初めてなんだ。
雪菜ちゃんのためなら俺
何だってできるよ?」




秋の風が私たちを吹き付け
ても唇に伝わってきた温かい温度
の余韻はしっかりと残っていた。





「もっと、自分を大事にしなよ。
何だってって言ったら、いつか自分を
苦しめる事になるよ。」




「…それでもいい。」




「それなら止めないけど、それで
傷付く桑田君を見るのは私的には
すごく辛いの。だから…」




「仮の彼氏じゃダメなの?」






私の声を遮って聞こえた
耳を疑う言葉。


仮の彼氏…って…。

そこには、愛なんて1つも
存在しないのに。
よけいに、桑田君を苦しめる
だけなのに…。






「それじゃぁ、桑田君は自分で
自分を傷付ける事になっちゃう。」




「…。でも、俺は諦めたくない。
傷付いてでも叶えたい本気の恋だから。」




「それに対して私は、うんとも
頑張れとも言えないけど、桑田君
がそうしたいなら、そうすればいい。」






私は立ち上がり、屋上を出た。