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なぜか私は、今、たっくんのベッドの上
で、後ろから抱き締められ私の体は
たっくんにスッポリと収まっている状態。
たっくんは、頭を私の肩に乗せていて。
その頃には、もう私は泣き止んでいた。
「雪菜。何で、泣いてたの?」
私に、話しかける言葉は優しくて、
胸が痛いくらいにキュンとした。
たまに意地悪だけど、やっぱり優しい。
「私ね、今日のたっくん見てたら、
凄く、たっくんが遠い存在に見えて…。
やっぱり、いつか私を置いて行っちゃ
うんじゃないかって…、どうしても
考えちゃうんだ…。」
そう言った時、たっくんが少し
私を抱き締める力を強めた。
それは、まるで、どこにも行かないよ
って言われてるみたいな感じがした。
「俺はどこにも行かねぇよ。
んな事より、まだ雪菜に話してない
事があるんだ。聞いてくれるか?」
(話してない事?)
もしかして、あの鈴とか言う
女の人の事かな…?
「聞くよ。話して?」
私が言った言葉にたっくんは
安心したようで、話し出した。
「まず、あのダンスホールにいた鈴っ
て女は…、実は…俺の婚約者だ。
けど、俺はあいつと結婚する気はねぇ。
俺は、雪菜じゃねぇとイヤだ。
母さんは、鈴との結婚に賛成なんだ。
もちろん、鈴も大賛成でさ。
それを、俺は小さい頃からずっと
否定してるもんだから、母さんは
俺の事を良く思わなかった。
きっと嫌われてんだろうな。
だから、早くあの鈴って女を
どうにかしなくちゃいけない。」
(え…?)
ちょっと、…え?
よけいに分からなくなった。
鈴って女の人はたっくんの婚約者?
親は、それを賛成してる?
…それって、もう鈴さんと
結婚するしか…ないんじゃ…?
いや…頭が混乱して…。
頭が真っ白な状態の時、たっくんは
優しく、私をぎゅって抱き締めて…
「雪菜。俺に方法がある。
けど、雪菜を不安にさせたり、
悲しませたり、泣かせたりもするかも
しんねぇんだ。
それでも、俺の傍にいてくれるか?」
なにそれ…。
そんなの…、
答えなんか決まってるじゃん。
1つしかないよ?
「ずっと、傍にいるよ。
いつまでも、たっくんの隣に
……私はいたい。」
私に、聞いてきたたっくんの声は
掠れていて、不安そうだった。
私が、答えたときのたっくんの表情は
分からないけど、きっと笑顔…。
たっくんには婚約者がいるんだ。
私は、婚約者の話なんか
1度もママからもパパからも
聞いたことのない事。
(実は、私にもいたりして…?
あはは。なんつって。)
私に、婚約者だなんて、
あるわけないない。
そんな事を、1人で考えていると
後ろから、寝息が聞こえる。
(たっくん…寝たのかな?)
私を後ろから抱き締めた状態
で寝るなんて…何か可愛いかも…。
後ろを振り返って、たっくんを見ると、
(ん…?…涙?)
たっくんの頬には一筋の涙が。
たっくんも不安だったんだよね…。
小さい頃から、辛い経験
してきたんだもんね…。
「私ね、まだちゃんと、小さい頃
たっくんにもらったネックレス
持ってるんだ。今でも、毎日
学校に付けてってるよ。大切な物だから。
私、絶対たっくんから離れない。
たっくんも私の事置いていかないでね。」
そう小さな声で、たっくんに
話しかけても、聞こえてるはずもなく。
……今日は、たっくんの
弱い所を見た。