「ねぇ玄」

抱き締めていた腕を緩めると、沙耶はその優しい瞳を伏せ、静かに、そして小さく小さく言葉を紡ぐ。

「私が何故此処に存在しているのか、解るかしら?」

唐突に投げかけられた問いに玄は首をかしげた。

「……解らない。正直、今でも夢なんじゃないかって思ってる。」
「そうよね、あちらの世界で私は死んでしまってるものね。」
「………けれど、姉さんは生きているよ。」

玄の答えに短く頷くと、沙耶は先ほどよりも強ばった声音で二つ目の問いを投げかけた。



「じゃあ、何故私は此処で生きているのか解る?」



びくりと震える空気。沈黙する二人。途絶えることなく聞こえるのは早まる鼓動。

「ねえ、さん?……」

沙耶の瞳に、一瞬だけ憎しみの色がちらついた。