撮影当日の朝がきた。昨日は思いの外良く眠れた。「おやすみなさいの魔法」が効いたかな?
いつもの朝食をとり、鏡の前に座る。(よし、肌荒れもクマも大丈夫。いつもの私だ。)衣装のワンピースを着て、荷物の準備。日傘もお忘れ無く。駅に向かう道のりも、いつもと違う。
そうだ、そうなんだ。今日の世界は私と彼を中心に回っている。きっとそうだ。
待ち合わせ場所のハチ公前に着いたのは、8:30分。勿論、彼の姿は無い。コーヒーでも飲んで時間を潰そう。コーヒーを飲み終えても、8:50分。もう待てない、ハチ公前に向かった。ハチ公前で待つ事2~3分。すると、こちらに向かって歩いてくる「金髪のロン毛でパーマ」を発見。今日は黒いカメラバックとシルバーのカメラバックにオーバーオールの出で立ちだ。
「おはよう。」
全力の笑顔で挨拶だ。
「おはよ。」
返事が返ってくる。
「PARCOの所で撮るから、向かっちゃおう。」
彼の横に並んで歩く。余計な会話はいらない、私達はわかりあえてる。
「じゃ、ここで。あの壁がバックね。」
指定された場所に立った。
「じゃ、ポラきるから。」
シャッター音が私の心まで響いた。日傘をさし、彼の横に並びポラを見る。
「こんな感じ。」
彼からポラを受けとる。
「じゃ、本番ね。画面広いから、大きく好きに動いていいから。」
彼からの指示は特に無い。私は私の思うがままにファインダーの中で動いた。
「じゃ、次はスペイン坂で。」
衣装を変えポラをきり、本番。時間もたち、渋谷の街中で人も増えてきた。みんなが好奇の目を私達に向けるが、なんてことは無い。だって、今日の私達は「この世界の主役」なのだから・・・
昼食をはさみ、撮影場所を移動。代々木公園に向かった。途中で彼が買ってくれた水を飲みながら。代々木公園の撮影では衣装をもとに戻し撮影。
「フィルムが無くなったから、撮影終了。お疲れ様でした。」
彼が頭を下げた。
「お疲れ様でした。」
私も頭を下げる。
「あっ、カメラ置いて真っ直ぐ立って。」
彼は怪訝な顔をしながら、私のいう事をきいてくれた。
(ありがとう。ありがとう。本当に、本当に・・・)彼を思い切り抱きしめ、「ありがとう。」と口にした。彼は今度は驚いた顔をしている。そんな彼がなんか可笑しかった・・・
「出来上がりいつ見る?明日には出来るけど?」
ポラロイドで見てはいるが、出来上がりは今すぐにでも見たい気持ちだった。
「あっ、早く見たいな~・・・明日の午後は?」
「あっ、明日の午後ね。俺は大丈夫だよ。」
「場所はどうする?」
「どうしよっか?」
彼が口にする。
「下北はどう?あんまり好きな町じゃないけど?」
「なんで好きじゃないの?」
「なんかね。好きじゃないのよ。」
笑いながら彼が答える。
「じゃ、下北のなに口だ?ドトールがあるほうに14:00時で。」
「わかった。あっ、もし時間があるなら、もうちょっとゆっくりしない?」
「んっ、別に構わないけど。」
「じゃ、そこのベンチで。」
ベンチに着くと、彼がピクニックシートを広げてくれ、二人してシートの上に座った。
「涼しいね。」
彼が口にする。もう8月も後半だ。
「そうだね・・・」
特に会話も無いまま、30分程たっただろうか?
「そろそろ現像所へ行かないと。」
と、彼が立ち上がった。
「あっ、そうか。」
私も立ち上がる。
そのまま原宿駅で、彼はJR、私は地下鉄と別れた。
「お疲れ様でした。では明日。」
「では、明日。」
手を降り地下に降りていく私を、彼は見えなくなるまで見送ってくれた。