私が「恋」をしてしまった事で、撮影にあたっての打ち合わせはスムーズに進んだ。撮影は再来週。衣装は好きな服で良いとの事。よし、お気に入りの「ワンピース」を2着用意しよう。ロケは渋谷で9:00集合、場所はハチ公前。撮影前日は確認の為連絡をいれる事。諸々が順調に決まっていく。そして、これが大事。「お互いのお勧め映画を観ておく事。」なんでも、渋谷でロケをする理由として、この映画からインスピレーションを受けたという。「ちょっと過激かも知れないけど・・・」という彼からの忠告も右から左へ抜けてゆく。彼は打ち合わせが進むと同時に酒も進む。相当「好き」みたいだ。ふと彼が口にした。
「葵さん、下の名前は?」
きた、お約束の質問だ。
「名前はね、二奈。正確には「にぃな」だけど仕事は「にーな」で通してるよ。」
よし、今度はこっちが質問する番だ。
「原田さんの名前は?年は?」
「あれ?名刺渡してなかったっけ?」
と、彼が名刺を差し出した。
「大樹と書いて「たいき」年齢は22。あっ、携帯番号も自宅もFAXも全部書いてあるよね?」
「FAXもあるんだー。」と名刺を手帳にしまう。
「あっ、葵さんの年は?」
(あちゃ~・・・年齢ゴマかしているんだよね・・・一コ上くらいにしとくか・・・)
「23だよ。」
笑顔でごまかす、その為の「営業スマイル」だ。打ち合わせもすんだ頃、彼が「もう遅いから。」と席を立った、腕時計は21:30分を指していた。駅へ向かい一緒に歩く。歩きながら彼が口にした。
「俺、来週ディズニーランド行くんだ。」
酒も手伝ってか、ずいぶん上機嫌に見えた。
「彼女と?」
「うぅん、友達と。」
ふぅー。と心の中で安心した。と、同時に甘えてみたくなった。
「ねぇ、私とは?私は舞台に連れて行ってくれるんでしょ?」
「おっ、そうだ、そうだ、舞台だ。舞台の生の迫力は凄いよ。」
と、笑顔をこちらに向けてくれた。そして、そのまま小田急線の地下改札まで送ってもらい、その日は別れた。決戦は再来週の水曜日、私は自分に気合いを入れた。