Name ~ 名前なんていらない ~











隣から、苡槻がこそっと私に耳打ちする。




苡槻!?




いつの間に、戻ってきたんだろう。


いつもなら、苡槻が戻ってきたことに誰よりも早く気付くのに。



今日は、気付かなかったどころか、心拍数もあまりあがっていない。






「さすが桃井だよな。紗結がおとなしくしてくれて、ホントありがたいわ」





周りに聞こえないようにと、潜めた苡槻の声が優しすぎて、なぜか落ち着いてしまった。





「…」





なんて答えればいいのか分からず、私が黙っていると、苡槻は続けた。





「桜井。お前も、ざまあみろって、思ってんだろ?よかったな。」




苡槻は、にやりと笑った。