目が覚めると、身体中が痛かった。皮膚も痛いし、筋肉も関節も痛かった。今までの人生の疼痛をまとめて1日の時間内に押し込むとこれくらいの痛さのレベルになるかもな…いや、今日の方が痛いのかも知れない、などと、寝ぼけた頭で下らないことが浮かんでは消えた。薄目を開けるともうカーテンの向こうはだいぶ明るくて、午前中の遅い時間のようだった。

 背中に気配がした。首をひねって壁のほうを向くと、誰かが一緒に眠っていた。3秒かかって幸村さんだった、と思い出した。

「えっ? あっ!!」

 目覚ましの音を聞いていない。今何時なんだろうか? 床に落ちている携帯を慌てて拾い上げ、時間を見た。10時半…なんということだ! 遅刻なんてもんじゃない!

「おぉ…ああ…起きたか。おはよう」

 僕の狼狽ぶりに幸村さんも目が覚めたようだった。僕はベッドの上で半身を起こし、幸村さんにどもりながら訴えた。痛みはすっ飛んでいた。

「ままままずいです! ちっ遅刻ですよ! ちょ…あ…今から、今から職場に電話しますんで…」

 僕は携帯の電話帳を開き、スタッフルームの電話番号を探した。すると幸村さんがのんきな声で訊いた。

「土曜出勤か?」
「へ?」

 僕はまぬけな声で聞き返した。

「土曜の解剖当番か? って」
「ど…どよう?」
「ああ」
「なにがですか?」
「今日」
「今日…? 土曜日?」
「ああ。土曜だ。俺がここにいるんだぞ。平日なわけねーだろ」
「あっ…あ? ああ…ああああ。そう…ですね」

 携帯をよく見ると、待受の右上の日付の曜日に、青い文字で“Sat”とあった。僕は携帯を握ったまま、ベッドにもう一度仰向けに倒れた。忘れていた痛みが一気に戻ってきた。

「はあぁ……なんだ…助かった…痛たたた…」
「岡本って、発作起こすと全部ヌケるんだな。鍵掛けないしな」
「…曜日の感覚がいつも曖昧なもんで…特に」

 心臓がバクバクしていたのが、少しづつ治まってくる。仰向けのまま脱力状態でホッと息をついた。幸村さんが僕に訊いた。

「…それよか、もう発作は大丈夫なのか?」
「たぶん…ええ…たぶん」
「ほんとかよ…? あの時は次の日も悶えてたぞ?」
「じゃあ、試しに感じそうなとこ、愛撫してみて下さい」
「え…岡本…いつの間にそんなこと言えるようになったの?」

 少し驚いたみたいな顔で幸村さんは僕の顔を覗きこんだ。いつの間にか僕を呼ぶ時が、“お前”から“岡本”とか“君”に変わってた。もう怒ってないようだった。

「なにか問題でも?」
「いや、今までになく余裕だなって」
「そうですか」
「そうですが。じゃあ、ご依頼の通りに」

 そう言うと幸村さんはいきなり顔を首筋に埋めた。唇の感触が肌に触れた。だがそれだけだった。