今私の目の前にあるのは洞窟だ。
でもただの洞窟なんかじゃない。
入口の両脇には筆でなにかが書かれた紙が貼られているけれど、ともに破れて垂れ下がっている。
足元には、土が滲みこんで汚れている太縄が引きちぎられたように横たえていた。
私はそっと何歩か後ずさる。
また大きく唸る風が耳を掠める。
思わず息をのみ、目をみはった。
今まで見たことなんてなかった。
だって、お父さんに近づいてはならないと、きつく言われていたから。
「これが封印されし洞窟……」
幼い頃、お父さんにこの界隈の伝説を少しだけ聞いたことがある。
大昔、神社の森の奥の洞窟から、あやかしが這い出てきたのだと。
そしてその洞窟は、あやかしの住む世界につながっているのだと。
ということは、これがあやかしの世界への入り口……。


