地の底から吹きあがってくるような低く壮大な息遣いが辺りを包み込み始める。
一気にざわつき始めた木々のただならぬ雰囲気に、私は怯えながらもぐるりと視線を走らせた。
木はまるで生き物のように枝をしならせ、掠れ合う葉が乾いた音を立て喚いている。
前方から吹きつける風は強くなり、足元の草は動揺するように激しく波打っている。
私は暴れる自分の髪を抑え込み、入り組んだ岩肌の一部に目を凝らした。
「まさか、あの洞窟……?」
吸い寄せられるように、一歩一歩その部分へ近づいていく。
周りは滑らかな岩肌に囲まれ、そのまん中にぽっかりと開いた大きな穴が見えてくる。
そこで私は草をきつく踏みしめ佇んだ。
穴から吐き出される生温かい風が全身を舐めあげる。
そして風は耳元で獣のように唸りをあげた。
私は風を避ける余裕もなく目を丸め、穴の奥へどこまでも続く暗闇に身震いした。
まるで、怪物が口を開けて獲物を待っているかのよう……。


