お気に入りになってしまった目の前にあるこの村の風景が、私の後ろ髪を引くんだ。

私はここの服には似ても似つかないスカートの端っこをギュッとつかんで下唇を噛む。

やっぱり私はこの村の者ではないんだなと、実感して言葉をなくす。

そんな私の背で、小さなノック音が聞こえ、私は短く返事をした。

「支度は、できているようだな」

現れたのは、いつものように冷静な顔をした紫希だった。

戸口に立ったまま寄ってこない彼に、私は俯いて問いかける。

「ねえ、紫希、私もう帰らなきゃいけないのかな……?」

スカートの下で震える足に、泣きそうな声が落ちる。

でも、近づかない彼の声が言う。

「戦は、終わったんだ。さっき乱麻が烏天狗の街まで隠密調査に行ってきたが、ヤツらは次期総代の座をめぐって、一族内でバカみたいに吠えあっているらしい。俺らに矛先が向くことはないだろう」

私はそっと顔をあげて、もう一度彼を見た。

確かにそうだ。