目の前まで迫り、いっそう広がる漆黒の翼。
顎を突き上げて、泣きぼくろのある顔が一気に笑む。
「戻ってきたとは、正真正銘のバカだな。そんなにも息の根を止められたいか」
地を揺らすほどに響く高笑い。
九条琴弥は黒い軍を背に、仰け反って笑い声を轟かせる。
耳が痛いほどの声。
私は奥歯を噛み締めて、睨みつける。
すると琴弥は突如笑いをやめた。
そして、道化の仮面を脱ぐように、表情というものが消えさっていく。
私の鼓動が、大きく脈を打つ。
釘づけになって微かに息をのみこんだ。
一瞬にして沈黙が訪れる。
皆が凍りつく。
足がすくんでいく。
目の前で、氷のように冷たい蒼白な顔が、ただ静かに私たちを見下ろしているのだ。
でもその冷たい皮の奥には、ぞくりとするほどの炎が見える。