さっきは一生懸命助けてくれたのに、なんで急にそんな顔をするの?

私は落ちているカバンを拾い上げ、ベルトをきつく握りしめた。

そしてもう一度、彼を見上げた。

「あなたも、人間じゃないの? ならなんで助けてくれるの?」

そう口にした瞬間に、胸の奥が勝手に狭まった。

まだ、この人のことを何も知らないのに、あの化物と似た類の人かもしれないのに、心は彼が気になっている。

怖さもあるのに、なにかに惹かれる。

けれど彼は顔を伏せ、前髪で表情は隠されてしまった。

「聞こえなかったのか? 人間は首を突っ込むなと言っている」

彼は私の肩を押して突き放す。

ふらついて後ずさる私。

踵に妙な感触が伝わってすぐ、イヤな音が鼓膜を震わせた。

私は肩に力を入れ、切ない思いで彼に視線を向ける。

でも彼は、くるりと背を向けて手すりに体を預けていた。