私は声を漏らす。

顔を逸らしたままの紫希。

その背に広がる、大きな漆黒の翼。

「紫希……」

翼は勢いよく空をあおぎ、戦場を遠く後ろに流し、木々の海めがけて、紅色の空を駆けていく。

凄まじい風が身をきり、私は紫希の胸にしがみついた。

寄せた耳に狂い鳴る心臓の音が聞こえる。

決して下を向いてくれない紫の顎には、夕日に輝かされた想いの雫が今にも風に散ろうとしていた。