さっき、私は諦めないと心の中で誓ったけれど、ひとつだけなら諦めたものがったのだ。

奥歯までしっかり噛み締めて、私は琴弥とともに新郎新婦の席に腰を下ろす。

笑顔のない参列者の海が視界いっぱいに広がる。

この年でこんな白無垢を着てここに座っている、好きでもない人と。

急に息苦しいくらい胸が苦しくなる。

こんな時なのに、紫希の素知らぬ顔が浮かんでしまう。

もしも叶うのなら、私の隣は紫希がよかったなんて、今更思う私はバカのだろう……。

決意したのは自分なのに、鼻の奥がつんと痛い。

紅色の空がぼやけていく。

これで、私の恋とは本当に、さよならだ……。

壇上の下にいるおじさんが声を張り上げる。

「ではこれより婚姻の儀を……」

「凛を! 鈴代凛を、返せぇぇぇぇぇ!!」

その刹那、黄昏の空を槍のような声が揺らした。