私は大きく目を見張る。

すぐに消えいっていく儚い声。

彼はまっ黒な着物を憎らしげに握りしめ言う。

「そうしたら、クソじじいにそっくりな兄貴の吠え面見て、こんな場所飛びだしてやったのによ。九条家なんて古くせぇ。ヘドが出んだよ」

黒い背中が翻り、襖の向こうに消えていく。

ぞくりとするほど憎しみのこもった、言葉の刃。

襖の陰に今にも隠れそうなその手にはまだ、隠し持つにはちょうどいい小刀が、力強く握られていた。