その時、遠ざかる足音がした。

襖が滑る音も響いてくる。

私は疲れ切って力もなく、やっと顔をあげる。

虚ろな目には、暗い廊下へと足を踏み出した彼の、まっ赤な背中が映った。

「では明日、婚姻の儀を執り行う。お主は我が妻となる自覚を持て。それがわかったら、明日、使いの者が迎えに来るまでこの部屋で大人しくしているんだな」

私の顔も見ずに放たれた言葉。

まるで死刑宣告。

私は明日、こんな人の奥さんになる……。

でも、まだましなのかもしれない。

今すぐに、あの人の手が、天くんたちの笑顔を今すぐに奪わないだけ……。

けれど彼はその瞬間、赤い羽織をひるがえして、私の方へ首を傾けた。

彼の唇が弓なりにしなる。

「約束とは違っているが、お主への結納金代わりにあれをくれてやろう。お主の母を売った男を。斬り捨てたければ響に頼め。好きにしてかまわん」

彼の鼻先の笑いが響く。