「あんず、紫希のことしか言わなかったんだ、やっぱ。俺も同じ幼馴染だっていうのに」

笑っている声なのにどこか震えている。

私は泣き腫らした顔をあげ、七瀬くんを見上げた。

それに気づいた七瀬くんが、まったく笑みのない真顔でこちらを向く。

でもすぐに、唇が少しだけ弧を描いた。

「話が逸れてごめん。だけど、恋は切ないね、いつも」

「七瀬くん……?」

七瀬くんの琥珀に輝く瞳が一瞬ぶれた。

いつもの七瀬くんではないみたい。

七瀬くんは、もしかして、あんずさんのことを……?

目を見開く私に、七瀬くんは眉をハの字にして笑ってみせたけれど、気を取り直した風に足を組んで前を見据える。

「ただ、紫希にとってなにが幸で、なにが不幸か、凛ちゃんはそこまで知ってるかい? 聞いたことがあるかい?」

唐突な問いかけ。

私は頭がまっ白になって、雲の浮かぶ呑気な空を途方もなく見上げる。