けれど、子ネコは持ち前のしなやかさで身をひるがえし、一目散に駆けていく。
「まっ待ってよ!」
すぐに立ちあがって後を追ったけれど、子ネコは自宅横の茂みへ突進し、森へと入っていってしまった。
私は幼い頃森の中に迷い込んでしまったのを思いだし、薄暗い森の手前で足を止める。
けれど、仕方ないと歯を食いしばり、すぐに森の中へと走っていった。
足を怪我しているのに、あんな子ネコが一匹で森に入るなんて危ない。
遠く先に見える、森の中に溶けそうな小さく黒い体。
私はその姿を見失わないよう夢中になって風をきる。
「待ってよ、ネコちゃん!」
ブレザーの肘がかさついた樹皮ですれる。
地面に転がる枝に躓きそうになって、体がつんのめる。
でも、なんとか踏ん張ってただただ子ネコを追う。
次第に明るい光が見えてきて、私はその光に目を細め、開けた場所に飛び出した。


