教室を出たばかりの私は、ふっと我に返り足をとめる。
ゆったりとした足音が近づいてきて、私は小さく口を開いた。
「雨宮先生……」
「まだ学校にいたのか、凛ちゃん」
私のそばで立ち止まる線の細い大人の男の人。
腕まくりしたブルーのワイシャツがよく似合っている。
30代半ばの国語の先生だ。
「掃除当番で。ていうか先生、学校でその呼び方していいんですか?」
私は雨宮先生を見上げてイタズラっぽくはにかむ。
すると先生は目鼻立ちの整った顔を大きく崩して笑った。
困ると、決まっておでこをかく。
「まあ、いいだろう。他に生徒もいないし、赤ん坊の頃からそう呼んできたんだから、なかなか直らないよ」
そんな私たちは顔を見合わせてちょっぴり噴き出した。


