こんなによくしてもらっているのに、私は我儘みたいだ。

でも、なんにもしていないくせに、心が重くて眠れる気がしない。

私は膝を抱えて、なにも教えてはくれない冷たい月を見上げつづけている。

そんな静けさに包まれた部屋に、ノック音が襖の方から突然響いた。

私は障子のわきから顔を出す。

こんな夜更けになんだろう。

「はい……?」

迷う声で呟くと、襖はそっと開いていった。

月に照らし出される青白い着物に、煌めく切れ長の目。

「紫希……」

「女がそんな恰好で、簡単に男入れるなよ」

呆れたため息をつきながら、おかしそうに細くなる紫希の目。

私は彼を見上げたまま、呆気にとられる。

紫希が笑うなんて滅多にない。

いつもより何故か空気がやわらかい。

「まあ、お前はまだ子供だし、俺だからいいが」