お母さんではなく、いつもお父さんから聞いていた当たり前の言葉。
でも、目頭が熱いのはなんでだろう。
この言葉が、これから見知らぬ土地の、戦の起ころうとしている場所へ旅立つ娘に言い渡すべきものなのか。
お父さんは、表情を崩すことなく凛々しく佇んでいる。
私は俯いて呟く。
「はい……」
決めたことを変える気はないけど、お父さんは娘を引きとめもしないんだ。
私になにひとつ教えなかったのに、こんなに平然と見送れるんだ。
私にはお父さんがわからない。
私は俯いたまま踵を返す。
3人も私を追ってついてくる。
気づかれないよう、木々の影にまぎれて眼を拭う。
もう後ろ髪なんてひかれない。
私は自分の家と別れるために、気の根が張る地を蹴った。
でも急に、森の影の中を光のような声が駆け抜けた。


