毎度のことながら、参拝客の少ない貧相な我が家に肩を落とす。
肩にかけていたカバンの持ち手はくたびれたように垂れ下がった。
嘆いてもこの現実は変わらないと、社の横にある平屋建てのこぢんまりした家に向かって歩き出す。
するとその時、黒いくねったものが手水舎の脇でうごめいた気がした。
耳をすませば、カタカタとなにかがぶつかる軽い音がする。
私は立ち止まり、ごくりと唾を飲み込んで、手水舎の脇に恐る恐る顔をつきだした。
「あっ」
思わず声が漏れ、私は口をとっさに抑え笑みこぼした。
「かわいい」
そこにはビロードのように毛並みのいい小さな黒ネコが一匹。
地面に落ちている柄杓の持ち手を前足で何度も踏みつけながら、わずかに残っている水を小さな舌で舐め取っているのだ。
でもよく見ると子ネコの左の前足には、なにかで引っ掻かれたようなキズがある。
「あぁ、痛そう。ケガしてるじゃん。おいで、手当てしてあげる」
私はそう言って、子ネコへと手を伸ばした。


