「ああ、全部知っている。絶対に信頼できる人だ」
強い響きを持って、私の胸に突き刺してくる。
一歩も引かない彼は、その眼差しの光を弱めない。
「お前を預かる以上、正信さんには挨拶をする。それに、受け取っていかねばならないものがある。お前がイヤがっても、絶対に寄るからな」
言い終わると同時に、紫希はどんどん森を進む。
私の返事なんて待つ気すらない。
若草色の袖だけが黙って差し出される。
七瀬くんが小さく頷いて私の手を取ってくれた。
私はその手にひかれながら、重い足を前へ動かしていた。
考えれば考えるほどわからない。
お父さんが全部知っていたなら、こんな日が来ることをわかっていたなら、なぜ教えてくれなかった……?
折り重なる葉の屋根からこぼれ落ちた空の光が、地面で私の心みたいに揺れていた。


