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ろうそくは姿をなくしていた。

窓からは白い光が溢れていた。

私は俯いて、涙の代わりに肩から髪をばらりと垂らす。

「時間は残酷だね」

枕の傍らには四角く畳んだ濃い灰色の羽織り。

微かに、自分を嘲笑う。

そしてお腹までかけてあった布団にしがみついた。

私は結局、紫希を呼び戻せなかった。

ずっと布団に張り付いていた。

でもそれは、力がなくて動けなかったわけじゃなくて……。

決意の塊と化した彼に、迷いばかりの私は言葉をかけに行く意気地がなかったから。

ただそれだけ。

それだけで私は、彼ひとりの名を呼ぶこともできなかったんだ。

「いや時間は悪くないね。なにも動かなかった私の方が、よっぽど酷いよね……」