私は力をこめて首を振る。

あんな信じられない記憶、思い出したくない。

でも、目の端に常に灰色の雲が映り込む。

不安で胸が息苦しい。

その時、カランとなにかが音をたて、私は小さく息をのんだ。

「どうしたっていうの、急に。私の話無視しまくってたでしょ!」

向かい合って座っている真央がお弁当のからあげに箸を力いっぱいに突きたてた。

箸をグーで握りしめ鼻息を荒くしている真央は相当ご立腹らしい。

「えっ? えっと、なんだっけ?」

私は思いだすふりを一生懸命しつつ、自分の手からこぼれ落ちた箸をさりげなく拾う。

すねている真央に、上の空で聞いていたなんて絶対に言えない。

「えっ? じゃないよ。この学年のイケメンの話よ」

「あぁ、その話……」

大した話じゃないじゃんと胸をなでおろす。

真央はとにかく面食いなのだ。