引きとめようと彼を見上げたときにはもう遅い。

戸は開け放され、外の藍色にしなやかな着物姿の背中だけが見える。

「俺は外で見張りをしている。安心して眠れよ」

翻る袖をのぞかせながら、戸が閉まる。

滑りこんできた夜風と、風にやわらかくからんで舞いこむ彼の声のぬくもり。

壁に映った明かりは、大袈裟に揺れて闇を見せる。

私は俯いて、まだぬくもりの残る羽織を抱きすくめるようにかきあわせた。

彼の強い声や、ずるいほどに優しい声が耳にまとわりつく。

私はぐっと歯を食いしばって、羽織を掻き合わせた手を強く強く胸に押し当てた。

彼の言葉をきいていると、胸がどうしようもなく苦しいんだ。

子供みたいに叫びながら泣きたくなるんだ。

私は震える唇を噛みしめて、お母さんのいた胸を包む。

私は押しつぶされそうだ。