低い声が静かに響き、辺りがざわめき立つ。

私は立ちすくんだまま、もう引きとめることすらできなかった。

彼はまた草を踏みしめ、森の中へと姿をくらました。

木々の囁きが胸を逆撫でる。

でも彼の声が残響となって、今も尚耳にこびりついていた。

幼い頃、お父さんに言われた言葉と同じだった。

『森に入ってはいけないよ。洞窟には、決して近づいてはいけないよ』

お父さんの言葉が頭に響き、振り向いて息をのんだ。

古い縄が切れて横たわる、封印のとけた洞窟……。

これが、本当にあやかしが這い出てくる道……。

私は肌蹴た胸元にある鈴型の痣を手でそっと覆う。

私に、なにがあるの……?

洞窟の奥の濃い闇が、私をじっと見つめているような気がした。