呆気にとられて、男の消えた空をいつまでも見ていると、着物の彼がいつの間にか傍らにいた。

彼は無言のまま私の横に膝まづき、私の手首を縛るものをとこうとしている。

少し首をひねれば、土で汚れてしまった薄灰色の背中がすぐそこにあった。

視界の端には、いまだ赤黒い血のにじむキズがうつって、眉をしかめた。

「あなた誰なの? なんで、そこまでして……私を守ってくれたの?」

キズが痛々しくて声がつまらせながら、ぼそりと尋ねる。

あの人間離れした剣術を持ち、化物に臆することなく向かっていった彼にもきっとなにかある。

「教える必要はない」

背中から伝わってきたのはあまりに素っ気ない言葉。

声は低く冷淡で、バカにでもしているかのよう。

私はムキになって、つい大きな声を出した。

「知ってるんでしょ、その言い方は。烏天狗ってなに? あなたもそういう人? 私になにかあるの?」