彼はつかつかと足音をたて私の方へと引き返してくる。
そして、思い出したように左の手の平を右の拳でぽんとわざとらしく叩いたのだ。
「そうそう、先代の姫巫女。姫巫女はどこまでも半妖びいきで、吐き気がするくらいバカな女だったぞ」
私は痛いくらいに拳を握りしめた。
真央を突き飛ばし、村に火を放ったそんな人に、お母さんをバカにされてたまるか。
私は自分の足で立ち、彼の前に立ちふさがるときつく睨みつけた。
「おっと、そう怒るな。お主の母にも賞賛すべきものはあった。神通力は烏天狗に負けるとも劣らなかった。我が一族のものにしてやろうと思ったほどだ」
彼は近くのテーブルに徐に腰掛けながら、輝きのない瞳で笑っている。
その上から目線の物言いに私が喉の奥で唸ると、彼は大袈裟に肩を落とした。
「だが、あの女は正真正銘のアホだった」
そしてふいに私の首元へ指先を伸ばしてくる。
私はギョッとして一歩立ち退き、手の平でそっと痣を覆った。


