大きな棚やテーブルが手を触れずとも軽々と空間に浮遊し、戸の前と窓の前にバリケードを作り上げていく。

締めくくりにカーテンを閉じ、悲鳴のような音を響かせた。

薄暗い部屋。冷え冷えとした静寂に包まれる。

黒い翼は闇を背負って、なお一層黒々と私へ覆いかぶさってくる。

すると急に、顎をきつく掴まれた。

微かに開かれた唇から、くすぐるような息が吹きかかる。

「これでもう、お友達とやらは助けに来ない。大人しく、俺と結婚しろ。そして、お前の力で半妖らの村を滅ぼすのだ」

恐ろしい囁きに慌てて顎を引こうとすれば、逃がさんと顎へ彼の尖った爪が食い込み、私は顔を歪めた。

けれど彼は、嬉しげに唇を三日月形にしならせる。

「16年前の戦を、やり直そうじゃないか」

薄明かりの中で、ふたつの瞳がぞくりとするほど妖艶に艶めいていた。