「ああ、ううん。大丈夫。そろそろ帰るね。迷惑かけてごめんね」
私はどちらの動揺も隠しきれなくて、慌ててカバンを掴み引きつった笑顔で部屋を飛び出そうとした。
けれど急に、目の前へ腕が突き出てきたんだ。
「待って。鈴代さん、俺のこと嫌い?」
行く手を塞ぐようにそっと、開け放たれた戸の縁につかれる手。
いつの間にか目の前に現れた九条くん。
外の明かりが九条くんの顔をほんのりと照らし出していた。
私はその顔に目を見開く。
「俺はもっと、鈴代さんとふたりでいたいんだけど」
リンゴみたいに、真っ赤な顔だった。
眉根には必死そうに皺がより、唇が微かに震えている。
私の頬は一気に熱を帯びる。
「ちょちょっと九条くん、それはどういう……わっ」
戸についていた手に私は包み込まれ、まるでダンスでも踊るみたいに彼にひかれてふわりと回る。


