小さな頃見た、勇者の背中が忘れられなかった

魔王を倒し平穏が戻ったとしても、いずれ第二、第三の魔王が現れた

その度立ち上がり、魔王を打ち倒してきたのは、いつも勇者だった。いや、打ち倒した人が、勇者と呼ばれてきたのだ

俺が物心ついた時だった。ちょうどその時、第何人目かの魔王が、何度目かの混沌を世界に呼び戻した時だった。

特に小さくも大きくもない村だった。普通、平凡、上も下も無い村

そんな村でも、魔王が再び現れた時立ち上がった人が居た。知ってる顔ぶれ。隣の家の優しいイーリガお兄ちゃん、花屋の綺麗なサンガお姉ちゃん、よく遊んでくれた青果屋のレージお兄ちゃん、皆普通の人。魔王となんて無縁な人達

皆行くと聞いて、急いで村の入口へと向かったけど、その時にはもう皆の後ろ姿しか見えなかった

皆どんな顔だったのかは分からなかったけど、その時の皆の背中はとても頼もしく、とても大きく見えたのを覚えている

その時の皆は帰って来ることはなかった。どうなったのかも今となっては分からない。俺が二十になるまでに、三回魔王が現れた 。四才、七才、十四才の時だ。勿論、その時の人達も背中を見たそれっきり。二度と会うことはなかった



「無駄死にだ。あの子らは命を投げ捨てただけだ」



魔王が倒れたと聞いても、戻ってくることがなかったあの人達を、村の大人は皆そう言って嘆いた。憐れんだ。貶んだ。誰一人として彼等を勇敢だと讃えなかった

無謀だったのかもしれない。でも、立ち上がった彼らは臆病者でなかった。俺は思った。人が立ち上がる姿は、その勇気は、意志は、別の誰かをまた立ち上がらせる力を持っているのだと。別の誰かに引き継がれるのだと


最後に魔王が倒され、それから五年。まるで魔王なんか最初から存在しなかったかのように、年々、『魔王』という単語を聞くことが減っていった。世界は平和そのものにへと変わったかのように思えた

しかし一年後。俺が二十になった年。実に六年ぶりに、魔王が再び現れた

勇者の背中を忘れ、実家の仕事を継ごうとしていた時だった

俺は薄れていた勇者たちの背中を思い出し、自分の夢であった『勇者』にへと、なることを決意した


魔王が現れ、一週間が経った今日


俺は念願の、勇者になるんだ…ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




そんな決意を胸にした俺は