玄関から出ると、ちょうどお父さんと出くわした。


「まさる、お母さん頼んだぞ」


ふと見ると、手には大きな荷物が。


「勉強だけはしっかりやるんだぞ。約束だからな」


「うん」


「夏バテするなよ」


「うん、お父さんも」


隣町では、黒煙が立ち上っている。


遠ざかるお父さんの背中を、ぼくは見えなくなるまで見送った。


小さくなっていく背中に反比例して、胸元の震えは大きくなっていく。


「またノミ?」


「ノミや‼ノミが全身まわっとるんや‼」


どうやら、モヒリアンは涙もろいらしい。


やがて見えなくなった背中に、ぼくは謝った。


約束、守れなくてごめん。


だからぼくは、お母さんを選んだんだ。


なにかが変わってしまった町。


それは嫌でも、ぼくたちを変えていく。


いいようにも。


悪いようにも。


そして、ぼくはお父さんと別れた。


永遠に。