出会いは3月ーー 冬が終わったばかりなのに もう桜のつぼみが開こうとしていた。 その日は高校入試の日。 櫻井色葉(さくらい いろは)は緊張した表情で机に向かっていた。 聞こえるのはえんぴつを走らせる音と、試験監督の先生の歩く音。 先生が隣を歩く。 若くて、背はあまり高くない。 短いが、ワックスで整えられた髪。 ふと顔をあげ見つめたその背中に 優しく爽やかな香りがした。 それは微かに残る、記憶。