ああ、あの「擬人化記憶術」
 確かにあの話をしていたときの友永先輩は、興味津々で楽しそうだった。

“色々話し合いたくて”

 うっそおおお!

 先輩とまた勉強できる機会があったとしても、それは「無言で自習に限る」だと思っていたから。「色々話し合って」なんて夢のような提案だ。

 だけど先輩の家でってのが、ドキマギしちゃうよ。
 これって、勉強を口実に……他のことも教えてあ・げ・る!? ……なわけないか。友永先輩に限って。


『はい喜んで。まとめノート一式、持参してお伺いします!』




 約束の時間、先輩に指定された駅で先輩と落ち合った。
 バスと違って、電車の時間は正確だ。時間どおりに駅に着くと、先輩が待っていてくれた。

 今日は意外にラフな感じの、ポップな色使いのTシャツ姿が新鮮に映る。
 自宅で過ごす用の、部屋着なのかもしれない。にしてはオシャレ、さすが友永先輩。

 それにしてもやっぱり不思議だ。
 こんなにきちんとしていて、何事にも抜かりがないという印象の先輩が、あんなに大きな忘れ物をしたということが。
 バス停のベンチに置き忘れた、純金のティーセット。

“あのティーセットは、品物としての価値はたいしてありませんが、実家代々受け継いで来た、縁起物なんです”

 そう言って、是非御礼をと申し出た先輩の表情は、とても神妙で重苦しかった。
 そんなに大事なものを、うっかり失くしそうになるなんて、友永先輩らしくない。